社会保険適用促進手当とは【106万の壁の対応策】企業・従業員向けに分けて詳しく解説
2024/05/27
パートやアルバイトなどの短時間労働者が、社会保険制度の下で働く場面が近年増加の傾向にあります。
一方で、一定の収入基準を超えると社会保険料の負担が発生し、手取りが減るという課題も……。この問題を解決するために、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入しました。
このパッケージに含まれる重要な要素の一つが、「社会保険適用促進手当」となっており、今回の記事は、年収106万円の壁と共に、社会保険適用促進手当について解説していきます。
社会保険適用促進手当とは
短時間労働者が社会保険制度の下で働く際に、社会保険料の一部を事業主が負担する制度を「社会保険適用促進手当」と言います。この手当は、労働者が社会保険に加入を促進し、手取り収入の減少を防止するために導入されました。
具体的には、労働者が社会保険加入に際して発生する保険料の一部を事業主が補填することで、労働者の手取りをダウンすることなく、社会保険の適用を促進します。
また、社会保険適用促進手当で支給されるお金は、社会保険料を決定する標準報酬月額の算定基礎から除外されます。これにより、手当が入っても社会保険料が増加せず、手取りが増えるのです。
社会保険適用促進手当の目的
社会保険適用促進手当の目的は、
・社会保険制度への加入を促進し、労働者の手取り収入の増加を図ること
・社会保険制度への加入が難しい人々を支援し、制度への参加を促すこと
・労働者の手取り収入が減少することなく、社会保険に加入すること
上記の取り組みにより、労働市場の活性化が図られ、労働者と企業のマッチングが改善され、経済の活性化が期待できます。
また、社会保険への加入により、労働者の社会的保護が強化され、安心して働くことができる環境が整うことも期待できるでしょう。
そもそも「106万円の壁」とは?
「106万円の壁」とは、労働者が年収106万円を超えると、厚生年金保険や健康保険などの社会保険に加入する必要が生じることを指します。ここでは「106万円の壁」の問題点や、社会保険加入条件について解説します。
「106万円の壁」の問題点
「106万円の壁」にはいくつかの問題点があります。
社会保険料加入により手取りが減る
従業員側が「106万円の壁」を超えると社会保険に加入する必要が生じるため、手取りが減る可能性があります。とくに、低所得者や短時間労働者などは、手取り額に大きく響いてしまう可能性があるのです。
そのため、働き手が経済的な負担を理由に、働く時間や収入を制限するといったリスクがあります。
労働時間の抑制により採用コストが増える
また、「106万円の壁」を従業員が超えると、事業主にも負担が及ぶ可能性があります。これは非正規の労働者が労働時間を抑えてしまうことで、採用員数を増やす必要があり、企業側の採用コストが増大してしまうのです。
よって、「106万円の壁」は労働市場全体において、働く意欲を抑制する要因とされています。
社会保険の加入条件
社会保険の加入条件は、以下の通りです。
従業員数101人以上の場合は以下の表を参考にしてください。
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また、100人以下の場合は以下の表の通りです。
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2024年10月1日以降は、51人以上の企業にまで従業員101人以上の表の基準が適用されます。
社会保険適用促進手当の適用要件
社会保険適用促進手当を受け取り、なおかつ標準報酬月額の算定から除かれるためには、以下の要件を満たす必要性があります。
・標準報酬月額が10万4千円以下の労働者のみが対象。
・手当の支給が本人負担分の保険料を超えないこと。
・新たに社会保険に加入した労働者に限り適用。
※ただし、同じ事業所内で他の労働者に対して、同水準の手当てを特例で出す場合に対象。
・最大2年間、算定除外が適用される。
・手当の名称は原則「社会保険適用促進手当」とすることが、診査円滑化のために推奨されています。
【従業員側】活用メリット・デメリット
ここでは、社会保険適用促進手当を活用するメリットとデメリットを解説します。
メリット
従業員側の「社会保険適用促進手当」の活用メリットは、手取りの増加です。従業員の社会保険料負担が軽減されて手取りが増えるため、生活の安定につながります。
さらに、社会保険に加入することで医療費の補助を受けることができるようになり、従業員は将来の不安を軽減し、安心して働くことができるでしょう。
デメリット
手当増加分は社会保険料に影響しませんが、他の雇用保険料や税金に対しては影響を及ぼします。そのため、税負担が増加することになります。
また、最大2年間で終了する措置であり、その後については通常通りです。
【企業側】支給メリット・デメリット
ここでは、社会保険促進手当を活用する企業のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
メリットは、以下の内容が期待できます。
・優秀な人材の獲得や定着率の向上が期待できる
・「安心して働くことができる」という職場環境が整う
・労働力の活用が促進され、生産性の向上が期待できる
・従業員の雇用環境と待遇の改善につながる
従業員のために会社側が積極的に動くという姿勢を見せることで、従業員ロイヤルティを高めることにもつながっていきます。
デメリット
企業へのデメリットは主に3つです。
・手当の支給や社会保険料の負担が増える
・従業員の管理や手続きが複雑化する可能性がある
・手続きに関する管理や記録の増加リスクがある
上記の通り、人事部門や経理部門の負担だけでなく、企業経営への負担が増えるといった点があげられます。また、この手当は特例措置以外では、対象となる従業員以外は受けることができず、従業員間の不公平感につながる可能性がある点も考慮しなければなりません。
社会保険適用促進手当の注意点
社会保険適用促進手当の注意点を紹介します。
社会保険適用促進手当を毎月支給すると割増賃金の算定基礎に該当してしまいますが、臨時に支払うようにすれば残業代などが通常よりも増加せずに済むため、複数月分をまとめて支給することが可能という点。
他にも、就業規則変更に伴い、手当を新たに設立することとなるため、就業規則で手当てに関する規定を作る必要があります。その場合は手当が2年で終了してしまうため、労使関係を円滑にするためにも「2年で終了する」と記載しておきましょう。
「社会保険適用時処遇改善コース」の活用もおすすめ
社会保険適用時処遇改善コースという助成金を活用することがおすすめです。このコースは、既存のキャリアアップ助成金に追加で設置された助成金です。
社会保険適用時処遇改善コース以外にも、非正規雇用を正社員転換した場合に支給される助成金など、従業員の処遇改善に伴って支給されるものがあります。
新設により、社会保険を適用した場合にも助成金が得られるようになりました。ここでは、手当等支給メニューと、労働時間延長メニューについて解説します。
手当等支給メニュー
経営者が従業員を社会保険に加入させる際に、社会保険適用促進手当などを支給して労働者の収入をアップする場合に活用できるメニューとなります。
助成金額は、以下の表の通りです。
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上記により、最大で1人頭50万円を受け取ることが可能です。
労働時間延長メニュー
従業員の労働時間を増加させることにより、社会保険適用がなされる場合に、事業主に対して助成金が支給されるメニューです。
以下の表が詳細です。
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中小企業の場合は30万円ですが、大企業の場合は22.5万円が最大額となります。
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まとめ
現在の労働環境では、短時間労働者の社会保険加入が増える一方で、年収106万円の壁による収入減少の課題もあります。政府はこの課題に対処するため、「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入しました。その中で重要な要素の一つが、「社会保険適用促進手当」です。
社会保険適用促進手当は、短時間労働者が社会保険に加入する際に、その一部を事業主が補填する制度です。これにより、労働者の手取り収入の減少を防ぎつつ、社会保険の適用を促進します。また、社会保険適用促進手当で支給されるお金は、保険料の算定基礎から除外されるため、手当が入っても社会保険料が増加せず、手取りが増える仕組みです。
この手当の目的は、働き手の社会保険制度への加入を促進し、手取りのアップを図ることにあります。
ただし、この手当を活用する際には注意点もあります。例えば、手当が増加することで税負担が増加することや、手当による不公平感などが挙げられます。
企業側も、経済的負担の増加や手続きの複雑化などのデメリットを考慮しなければなりません。また、社会保険適用促進手当の他にも、「社会保険適用時処遇改善コース」や助成金の活用もおすすめです。これらの制度を活用することで、従業員の手取り収入の増加や、企業の経営負担の軽減が期待できます。