エルダ―制度とは【メンター・OJTとの違い】導入ポイントや注意点、よくある質問を解説
2024/12/20
エルダー制度は、新入社員の成長を支えるためのOJT研修の一つです。この制度では、実務の指導だけでなく、新入社員のメンタルサポートも含まれるため、業務上のスキル習得と精神面のケアを両立させることが特徴です。
新卒社員だけでなく、中途採用者を対象とする場合もあり、早期に職場へ馴染むことを目的としています。
本記事では、エルダー制度の概要や「メンター制度」や「OJT」との違いを整理しながら、導入のポイントや注意点、さらに制度の導入に関するよくある質問について解説します。エルダー制度を効果的に導入するための参考にしてください。
エルダー制度とは
エルダー(elder)という言葉は、「年長」「年上」「先輩」を意味し、ビジネスにおけるエルダー制度は「新入社員に対するOJT研修の一つ」です。比較的年齢が近い先輩社員が教育係となって、対象者に対して1対1で指導を行う制度をいいます。
エルダーは実務の指導だけでなく、職場での悩みや人間関係の相談に乗るなど、新入社員のメンタルサポートを担うこともあります。新卒新入社員を対象にすることが多いですが、早期に組織へなじむことを目的として中途入社の社員が対象に行う場合もあるのです。
「メンター制度」との違い
どちらも先輩社員が後輩社員のサポートを行う制度です。異なるのは、フォローする範囲にあります。
メンター制度は、メンタルケアに重点を置くことが多く、他部門の人間が実施することも可能。基本的には職務上の指導は行いません。
エルダー制度は、新入社員の職務上の指導と精神面のケアの両面をフォローし、OJT研修の一つであるため、基本的には同じ部門内の人間が担当する制度となっています。
「OJT」との違い
OJT制度はOJTは「On The Job Training」の略で、職場での実務を通じて行う研修全般を意味します。これには、1対1での指導者を設定しない実務研修も含まれます。
エルダー制度の場合、実務研修以外のOFFJTとしての場でのメンタルサポートも行いますが、OJT研修ではそこは含みません。定義は会社ごとに異なる場合もありますが、エルダー制度は実務以外の場で行うメンタルサポート以外は、OJT研修に内包されると言えます。
ただし、前述したメンタルサポートの一部はOJTには含まれないケースが多いでしょう。
エルダー制度の目的
エルダー制度の目的は、新入社員の業務習得や成長を促進し、早期の戦力化を図るとともに早期離職を防ぐことです。
エルダー制度では、直属の上司ではなく、新入社員と年齢が近い先輩社員が1対1の関係で、実務指導や相談役を担当します。身近な存在であることから、新入社員は相談しやすい関係になることが多いです。密にコミュニケーションをとることによって、モチベーション低下や課題などの兆しを早期に把握することができます。
また、エルダーとなる先輩社員も教育係を経験することで、自分の仕事の仕方や管理職へのステップアップのために、成長する経験が得られるのです。
エルダー制度のメリット
企業側
エルダー制度の企業側の主なメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
新入社員の職場への適応を促進
まず期待されるのが、新入社員が早期の段階で、実際の業務のポイントを把握できることです。年齢と経験の近い先輩社員の直接的なレクチャーとサポートを受けることで、新入社員が業務イメージをつかみやすくなります。
また、親近感を持ちやすい先輩社員が1対1の関係で対応してくれるため、わからないことを相談する相手が明確になります。質問や相談がしやすい環境が作られることから、新しい職場への早期に適応することが期待できます。
先輩社員の指導経験
指導される新入社員だけでなく、エルダーの役割を担う先輩社員の成長も期待できることはメリットの一つです。
部下をもったことがない先輩社員にとって、指導経験・相手のコンディション確認は、新たな成長の機会につながります。指導する立場になり、業務目的や成功のポイントを改めて考える必要があり、業務の振り返りにもつながるのです。
また、後輩の習得状況の管理や日々の業務観察などの経験は、将来的にリーダーや管理職へステップアップするために必要なマネジメント能力を養うことにもつながるでしょう。
早期離職の予防
エルダー制度の導入は、新入社員の早期離職を低減できる可能性があります。
新入社員は新卒・中途に限らず、入社当初は慣れない業務や職場環境により不安が募り、早期離職へとつながりやすくなります。そのため、不安がないことは、過剰なストレスがなく安心できる職場環境と感じるための重要な要素と言えるでしょう。
相談しやすいエルダーの存在は、新入社員の不安を低減することが可能です。また、エルダーが処理できない問題も、エルダーが早期に気がつくことで、エルダーからエスカーレーションして解決できる人へ相談することが可能です。
従業員側
エルダー制度の教育対象となる従業員側のメリットとしては、以下のようなことがあげられます。
相談しやすい環境
エルダーとなる先輩社員は、年齢が近く相談しやすい存在です。基本的には同性のエルダーが選ばれます。上司には相談しにくいことも、年齢が近いエルダーには相談しやすいはずです。
上司のように多数の部下を抱えているわけではなく、1対1の関係であることが多いため、質問する相手は明確であり、質問を受けやすい環境でしょう。不安なこと、わからないことをすぐに相談できる環境があることで不安を軽減できます。
身近なロールモデル
社内のロールモデルは、最優秀レベルでエリートであることも多く、新入社員全てにとって目標にしつつも身近に感じるのが難しい存在であることも……。
エルダーで選ばれる先輩社員は将来、社内ロールモデルになりうる可能性のある社員でありつつも身近な存在です。新入社員にしてみれば、身近に未来のロールモデルがいることで今後のキャリアをイメージしやすくなります。
エルダー制度のデメリット
企業側
エルダー制度の企業側の主なデメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
事前準備のコスト
エルダーとなる先輩社員に対し、事前に研修を行うことが必要となります。先輩社員が自己流の経験による指導をしないように、業務マニュアルや手順書の整備が求められます。
指導する方法や業務内容はもちろん、アドバイスをしてもよい相談とエスカレーションによる相談相手を変える内容の線引なども事前に伝えなければなりません。また、相性のよい社員を選抜するための適性検査を先輩社員、新入社員にもしておくことも、社員数の多い組織では事前準備として必要です。
エルダー社員の負担
過剰なストレスと業務の負荷が無いよう、会社側はエルダ―の業務状況に気を配り、しっかりとサポートすることが必要です。
エルダーとなる先輩社員は、通常業務とプラスして新入社員の指導やサポートにあたらなければなりません。さらに、業務の指導だけではなく、悩み相談を受ける場合も多くあります。
エルダー社員自身の業務目標の調整が難しいケースもあるため、場合によってはエルダーに一定の負担がかかることを周囲は理解しておく必要もあるでしょう。
従業員側
エルダー制度の教育対象となる従業員側のデメリットとしては、以下のようなことがあげられます。
エルダー社員の習熟度
エルダーとなる先輩社員は年齢が近い人が選ばれるため、指導経験が豊富な社員や管理職ではないケースがほとんどです。先輩社員自身も多くのわからないことがある可能性があり、指導スキルが習熟していません。
エルダーへの事前の指導体制、業務マニュアルが未整備であった場合、間違ったことを新入社員に教えてしまう可能性もあります。
エルダー社員との相性
エルダー社員と新入社員の相性があまりよくなかった場合、新入社員は相談相手がいなくなってしまう可能性もあります。
年齢の離れていることも多い管理職の上司であれば、コミュニケーション頻度もあまり多くなく、一線をひいて接することもできるかもしれません。エルダ―社員との相性についても考える必要があるのです。
エルダー制度の導入方法
事前準備
エルダ―制度の導入前に行うべき準備事項について解説します。
エルダー制度の社内広報を行う
エルダー制度の導入にあたって、まずは経営の承認を得たうえで、社内に広報します。その際に制度の概要や趣旨、期待している効果なども明確に示すと良いでしょう。
事前にしっかりした広報を行い、制度の重要性への理解を得ておくことでスムーズな制度導入ができ、導入以降も制度の形骸化が防げるなど、効果的な運用を目指します。
また、エルダーに選ばれた社員の評価内容や方法も制度に組み込み、エルダー社員として貢献した人へ具体的にどのようなメリットがあるのかも伝えることが大切です。
適性検査の実施と社員のデータ化
エルダー制度では、先輩社員と新入社員の相性が重要です。先輩社員と新入社員の適性検査を実施し、相性や事前の注意ポイントを理解しておきましょう。
適性検査を実施した後、新入社員の適性を事前に把握。気をつけるポイントを事前に伝え、相性のよい先輩社員との組み合わせを考えます。
特に、社員数の多い会社の場合には、社員のデータ化を進め、相性の良い上司部下、エルダーと新入社員を選べるようにしておくと制度導入がスムーズです。
エルダー社員への研修と業務マニュアルの整備
エルダーの候補者となる社員には事前に研修を実施しておくことが必要です。エルダー社員は管理職研修などの指導の研修経験を受けていない可能性も高いため、指導が自己流にならないようにしないといけません。
また、業務指導に関してもエルダー社員の自己流のことにならないように、マニュアルやガイドライン、手順書などを整備しておけば、スムーズなエルダー制度の活用が可能になります。
導入手順
エルダー制度の導入手順は以下のような流れが一般的です。
①制度設計と導入コスト、スケジュールの起案
②制度の会社承認
③社内広報
④適性検査の実施とエルダー社員の選抜
⑤エルダー社員の事前研修
⑥新入社員とエルダー社員のマッチング
⑦運用と改善
エルダー制度の導入ポイント
エルダー制度の導入ポイントは、事前準備をしっかりと行い、適性検査の実施や業務マニュアルの整備をしておくことです。エルダーをサポートする体制がなければ制度の導入が難しくなります。
また、エルダーに任せきりにせず周囲からもサポートすることも大切です。エルダー制度では、エルダーを担う先輩社員に負担がかかりがちになるデメリットがあります。
これを防ぐには、新入社員の育成に対して全社員が当事者意識を持ち、教育をエルダーに任せきりにせず、周囲の社員が協力し合うことが重要になります。上司をはじめとした周りの社員が、新入社員に積極的に声をかけるなどコミュニケーションを取り、エルダーに負担がかかりすぎないように業務分担などの配慮やサポートが必要です。
エルダー制度導入の際によくある質問
導入時にどのくらいのコストがかかる?
導入コストは状況によって変わります。もし、適性検査がすでに実施されていたり、エルダーへの事前研修を社内講師で行える場合には、直接的なコストはほとんどかからないはずです。
ただ、導入に際しては、社内説明会とエルダー研修、エルダーの時間が新入社員のサポートにさかれることも考慮したうえで、人員計画やサポート体制を整備する必要があります。エルダー研修を行っている会社もあるため、研修実施費用は導入に際してかかることがあります。また、準備のための人件費がもっともかかる導入コストになるでしょう。
エルダ―制度導入に反発された場合の対処法は?
エルダー制度導入に反発を受ける理由として想定されるのは、エルダー社員のパフォーマンスが一時的に低下することです。
例えば、営業部門の場合には一時的に売上が低下する可能性があります。反発された時には、その理由を確認して、懸念をクリアする必要があります。新入社員が早期戦力化することで年間売上は向上する可能性が高いこと、早期離職のコストを丁寧に説明していきましょう。
エルダー制度導入に遵守すべき法的な要件はある?
エルダー制度導入のために新たに遵守すべき法律は基本的にはないです。エルダーの労働時間が長くなる可能性があるため、労働時間の管理とケアに関しては、あらかじめ注視しておく必要があります。
エルダー制度導入に成功している企業例
エルダー制度を導入していることを発表していることの会社には、大和ハウス工業があります。
同社では、入社1〜3年目の若手社員にOJTエルダー制度を導入しており、エルダーが主体的にOJTを進めています。2週間に1度は1対1のミーティングを定期実施し、進捗確認をとりながら進めて新入社員の早期戦力化をはかっています。
出展元: https://www.daiwahouse.co.jp/recruit/traning/
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まとめ
エルダー制度は新入社員の早期戦力化とともに、エルダー側の育成もはかる制度です。エルダーへの研修、労務管理をきちんと行えば、直接的なコストよりもリターンが多く見込める制度です。
新入社員を多く採用する場合には、早期戦力化へと活用していきましょう。