業務改善助成金とは【わかりやすく解説】対象事業者・概要・注意点・支給額も詳しく紹介
2024/02/27
令和5年に岸田総理大臣は、初めて全国平均で時給1000円を超えることになった最低賃金を、十数年後には1500円に引き上げることを新たな目標にすると発表しました。
実現のためには日本の全従業員の68.8%を占める中小企業の賃金引き上げは不可欠です。
この記事では、業務改善助成金の対象事業者・概要・注意点・支給額について解説いたします。
業務改善助成金とは
業務改善助成金とは、中小企業などが事業場内最低賃金(※1)を引き上げるため、生産性向上などの施策に投資した場合、その費用の一部を助成する制度です。
具体的には、生産性を向上させるための設備投資(機械設備やデジタル機器整備など)や、人的投資(コンサルティング導入や人材育成・教育訓練など)を実施した場合、助成金が支払われます。
※1:最低賃金とは、雇用者が労働者に対して支払う賃金の最低額を示します。違反した場合は最低賃金法の第40条に則り、50万円以下の罰金という刑事罰が科せられ、社名が公開されるリスクも負うこととなります。
業務改善助成金の概要
業務改善助成金の概要について、わかりやすく解説いたします。特に、令和5年に拡充された下記3項目についてしっかりとチェックしてください。
1.対象事業所の範囲が広くなった
2.従業員50人未満の事業場は賃金引き上げ後での申請が可能となった
3.助成率の区分が見直された
対象事業者
助成の対象となるのは、下記3項目を満たした事業所です。
1.中小企業・小規模事業者である(※2)
2.事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である(※3)
3.不当解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がない(※4)
※2:「中小企業・小規模事業者」とは、資本金もしくは出資額、常時使用する労働者数の下記要件を満たす事業所を指します。
※3:令和5年8月の拡充措置により、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内から50円以内に拡大されました。
支給要件
令和3年まで特例コースが設けられていましたが、現在は受付されていません。また、過去に業務改善助成金を受給したことがあっても対象となります。
通常コース
通常コースの支給要件は、下記4項目が定められています。
1.賃金引上計画を策定し、交付申請を提出すること
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる(就業規則などに規定する必要があります)
2.引上げ後の賃金額を労働者に支払うこと
3.生産性向上のための設備投資や人的投資を行うことで業務改善を行い、その費用を支払うこと(※4)
4.不当解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
※4:経費削減や職場環境改善だけのための経費、通常の事業活動のための経費は対象外です。
特例コース
特例コースは、新型コロナウイルス感染症の影響で売上高などが30%以上減ってしまった中小企業事業者等を支援する助成金です。令和5年1月に受付は終了しています。
助成の対象経費
助成の対象となる経費は「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資など」に限定されています。
乗用車の購入費やパソコンなどの新規購入費、広告宣伝費などは、日常業務の範囲内として助成対象外となりますが、特例事業者に認定されれば認められます。
なお、特例事業者とは下記に該当する事業者のことを指しています。
(ア)賃金要件:事業場内最低賃金が950円未満の事業場に係る申請を行う事業者
(イ)生産量要件:新型コロナウイルス感染症の影響により、売上高や生産量等の直近3か月間の月平均値が、直近3年間の同期に比べ、15%以上減少している事業者
(ウ)物価高騰等要件:原材料費の高騰などの外的要因により、月の利益率(売上高総利益率又は売上高営業利益率)が、前年同期に比べ、3%ポイント(※5)以上減少している事業者
※5:「%ポイント」とは、パーセントで表された2つの数値の差を表す単位です。
申請の締め切り
業務改善助成金は令和5年12月26日に改定され、新たに「令和5. 6年度またぎコース」が新設されました。これにより、賃金の引き上げを検討している事業者の交付申請期間は令和6年2月1日から令和6年3月31日まで延長されました。
業務改善助成金の助成額
助成額は、計算の基となる規定が変更される場合もありますので、事前に知りたい場合は最新情報を確認するようにしてください。
助成率
助成率は、申請を行う前(引き上げ前)の事業場内最低賃金によって助成率は下記のように異なっています。
・900円未満は9/10
・900円以上950円未満4/5(9/10)
・950円以上3/4(4/5)
生産性要件に該当する場合は()内の助成率が適用されます。
助成額の計算方法
助成額は、設備投資や人的投資にかかった費用に助成率を乗じた金額と、助成上限額を比較し、低いほうとなります。
例えば、事業場内最低賃金が900円である10人の事業所が90円コースに申請し、10人の賃金を引き上げた場合の助成上限額は600万円です。この事業所が生産性要件に該当する800万円の設備投資を行いました。800万円に助成率9/10を乗じると720万円になります。
720万円は上限額の600万円を越えているため、支給額は600万円となります。
助成上限額
助成金の上限額は、引き上げる最低賃金額及び引き上げる労働者の人数によって変わります。
具体的には下記の表の通りです。
業務改善助成金の注意点
助成金の手続きを行う場合、適切な順序を踏まないと、交付の対象外になってしまうことがありますので充分注意しましょう。
賃金上げだけでは助成対象にならない
業務改善助成金は、生産性を向上させるための設備投資(機械設備やデジタル機器整備など)や人的投資(コンサルティング導入や人材育成・教育訓練など)を実施するのと併せて、事業場内最低賃金を各コースに定められている一定額以上引き上げた場合に、その経費の一部を助成するものです。
最低賃金を上回るために、賃金だけ上げても助成の対象にはならないので注意してください。
労働関係法令違反の場合は対象外
不当な理由での従業員解雇や、経営上の理由での退職勧奨、賃金の引き下げや労働時間の短縮など、労働関係の法令に違反する行為を行った場合は、支給の対象外となります。
これを不交付事由といいますが、詳細は申請マニュアルをご参照ください。
助成金について相談は「サプナ社会保険労務士法人」へ
サプナ社会保険労務士法人では、中小企業のサポートを行っています。
業務改善助成金は特に、申請する手順などを誤ってしまうと受けられなくなってしまいますので、細心の注意が必要です。助成金の申請をお考えであれば、まずはご相談ください。
オンラインによる無料相談サービスを実施していますので、専用メールフォームにてご連絡ください。
https://cdo-sapuna.com/
原則、3営業日以内にプロの見識をもって丁寧に返信させていただきます。
業務改善助成金の申請方法
業務改善助成金の手順は下記のとおりです。
【業務改善助成金申請への流れ】
1.事業改善計画と賃金引上計画を記載した交付申請書を労働局に提出
2.交付申請書の内容が審査されて受理されると助成金交付通知が届く
3.申請した設備投資や人的投資を実際に実行し、遂行する
4.計画を実施した結果と賃金引上の状況を記載した事業実績報告書を労働局へ提出
5.事業実績報告書の内容が受理されると助成金額の確定通知が届く
6.支払い請求書を労働局へ提出し、受領する
業務改善助成金についてよくある質問
申請手続きに関する質問について回答します。
どんな中小企業事業者が対象になる?
どのような中小企業事業者が助成金の対象になるのかは、要綱第2条及び要領別紙1に下記のように定められています。
1.資本金の額又は出資の総額が3億円以下の法人である事業者又は常時使用する労働者の数が300人以下の事業者であって、次号から第四号までに掲げる業種以外の業種に属する事業を主たる事業として営むもの
2.資本金の額又は出資の総額が1億円以下の法人である事業者又は常時使用する労働者の数が100人以下の事業者であって、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの
3.資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の法人である事業者又は常時使用する労働者の数が100人以下の事業者であって、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの
4.資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の法人である事業者又は常時使用する労働者の数が50人以下の事業者であって、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの
引用:中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)交付要綱
業務改善助成金でパソコンの導入は可能?
業務改正助成金でパソコンなどのデジタル機器を購入することは認められていませんが、生産量要件又は物価高騰等要件に該当する特例事業者の場合のみ、助成対象経費として認められています。
2023年8月から拡充された内容は?
厚生労働省は2023年(令和5年)8月31日をもって、下記について拡充することを発表しました。
事業所の最低賃金と都道府県別最低賃金との差額が30円以内であることが条件であったが、50円以内にまで拡充された。
・賃上げ前に申請する必要があったが、特定の条件を満たす事業所は、賃上げ後でも申請が可能となった(※6)
・助成率の区分となる金額が引き上げられた
・助成率9/10
⇒事業場内最低賃金が870円未満から900円未満に拡充
・助成率4/5(9/10)
⇒事業場内最低賃金が870円以上920円未満から900円以上950円未満に拡充
・助成率3/4(4/5)
⇒事業場内最低賃金が920円以上から950円以上に拡充
※6:事業場の規模が50人未満で、令和5年4月1日から令和5年12月31日の間に賃上げが実施された場合が該当。
まとめ
岸田内閣が掲げている、十数年の間に500円以上の時給を上げるという賃上げ目標を実現するためには、毎年約38円時給を上げ続けなければなりません。この金額は、生産性の向上や業務効率を実現し続けなければ到達できない目標です。
業務改善助成金を活用しつつ、計画的な事業計画を実施するためにも、一度専門的に支援している法人に相談してみると良いでしょう。
◆関連サイト
厚生労働省 最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者支援事業