人材育成とは【社労士監修】必要な理由や手法3選、計画例・成功事例、をわかりやすく解説
2025/02/11
企業が成長を遂げるためには、従業員の成長が欠かせません。そのために必要なのが「人材育成」です。
こちらの記事では、人材育成の基本的な概念から、その必要性や具体的な手法、計画の立て方、さらには成功事例までを幅広く解説します。
人材育成を効果的に進めるためのポイントを押さえ、従業員のスキル向上や企業全体の活性化を目指しましょう!
これから取り組む方や見直しを検討している方にも役立つ内容となっています。
人材育成とは
人材育成とは、対象となる従業員に対して、業務を遂行するために必要な知識やスキルを習得させることです。
人材育成の手法には、現場の業務に携わりながら教育するOJTや、現場から離れた場所で座学研修を行うOff-JTなど、企業内外で活用される教育手法が存在します。具体例として、実務を通じたスキル習得や、専門知識を深める研修などです。
人材育成・人材開発・組織開発の違い
「人材育成」「人材開発」「組織開発」は似ている言葉ですが、それぞれ目的やアプローチに違いがあります。
人材育成の目的は、業務に必要なスキルや能力を従業員に習得させることです。そのため、階層や職種など、カテゴリーごとに対象者を設定したうえで教育を行います。また、従業員が身につけるのは、特定の業務に関する専門性の高い知識やスキルとなります。
これに対して、人材開発では、従業員が本来の能力を発揮できるようにすることで、人的資源を有効に活用することを目的とします。そのため、人材開発においては、全ての社員が研修対象者に設定されます。また、従業員が身につけるのは、問題解決力やコミュニケーション力など、幅広い業務で活用できるスキルが中心となります。
また、組織開発では、従業員同士の関係性や相互作用を高めることで、組織を活性化させることを目的とします。よって、組織開発では、従業員ではなく、上司・部下や従業員間の関係性に対してアプローチをする点が特徴的です。たとえば、組織の価値観の共通化や、1on1文化の定着などが事例として挙げられます。
人材育成はなぜ必要?
企業が商品やサービスを提供するためには、従業員の力を借りる必要があります。教育が不十分な場合、業務の効率や成果に影響が及ぶことがあります。そのため、適切な教育を実施することが重要です。
加えて、近年では人手不足が深刻化しており、転職市場における採用競争も激化しています。簡単に即戦力を採用できない時代だからこそ、自社に在籍している人材を育成する重要性が高まっているといえます。
人材育成ができる人の特徴
人材育成ができる人には、以下のような特徴があります。
・仕事の目的を理解したうえで育成している
・部下が自律的に考える機会を与えている
・適切な目標を設定し、部下に共有している
・チャレンジングな課題を与え、挑戦させる
重要なのは、戦略目標の達成と部下の成長のベクトルを合わせることです。
業績ばかりを重視して部下を無視することも、甘い環境を作りすぎてノルマ達成ができない状況にも注意が必要です。企業と人材がともに成長できるバランスを意識することが大切です。
人材育成の目的
人材育成の主な目的は、以下の3点です。
業務品質の維持
企業にとって最も避けるべきことの一つが、業務の属人化です。人材が流出したときに、業務ができなくなるためです。人材育成をすれば、新人や後任の担当者が業務のやり方を身につけることができ、業務品質を維持することができます。
エンゲージメントの向上
教育研修により従業員の業務スキルが向上することで、仕事への意欲や組織への貢献度が高まります。
戦略目標の達成
戦略目標を達成するためには、該当分野に関する知見やノウハウを持つ人材を獲得する必要があります。自社の人材を育成することで、外部から人材を獲得するコストをかけることなく、効率的に目標達成をすることができます。
人材育成の主な手法3つ
それでは、人材育成にはどのような方法があるのでしょうか?この章では、人材育成の主な手法を3つ紹介します。
OJT
OJTとは、「On the Job Training」の略称で、職場での業務を通して、必要な知識やスキルを教育する手法です。新入社員教育の際によく用いられており、上司や先輩と新入社員が1対1となって指導が行われることが多いです。
OJTは、一人ひとりの理解度に合わせて指導ができ、仕事に直結した実践的な知見やノウハウが身につくなど、多くのメリットがあります。一方、体系的な知識を得づらい点や、OJTを担当する上司や先輩社員に負担がかかる点には注意が必要です。
Off-JT
Off-JTとは、会議室や教育センターなど、職場から離れた場所で教育する手法です。さまざまな研修に活用されており、講師が複数人の社員を相手に教育を行うことが多いです。
Off-JTのメリットは、たくさんの従業員に対して均質的かつ体系的な知見・ノウハウを教育できる点です。一方で、現場で求められる実践的なスキルを伝えるのには不向きであったり、事前知識によって理解度に差が出る可能性もあるため、気をつけましょう。
自己啓発
自己啓発とは、従業員が自発的に自身の能力を開発する手法です。企業によっては、自己啓発支援制度などを通じて、従業員の教材購入や資格受験費用などを補助していることがあります。
自己啓発のメリットは、従業員が社内にはない知識やスキルを伸ばし、学んだ内容を業務に還元してもらえる点です。
従業員のモチベーションやエンゲージメントの上昇にもプラスの効果が期待できます。一方、自己啓発の範囲をどこまでとするのかや、自己啓発の時間は勤務時間に含むのかなど、制度の整備がやや難しい面もあります。
人材育成に必要な考え方
企業が人事育成制度を策定する際には、以下のポイントを頭に入れておく必要があります。
経営戦略と連動させる
人材育成は企業の成長において重要な役割を果たします。もし企業戦略の方向性と人材育成の方向性がズレていると、目標達成がかえって難しくなる可能性があります。そのため、研修計画を立てる際は、経営戦略から逆算して必要な研修や伝えるべきメッセージを整理することが必要です。
現場の声に耳を傾ける
人事部主導で研修を企画する際は、現場のニーズを十分にヒアリングすることが重要です。
実際の業務と乖離した教育を行った結果、現場で再度指導が行われているようであれば意味がありません。かゆいところに手が届くよう、ニーズを反映した研修を行いましょう。
フィードバックを反映する
教育研修を実施したら、アンケートや意見収集を行い、フィードバックを反映するようにしましょう。
もし振り返りが行われなければ、古い情報や誤った情報を伝えていることに気づかないかもしれません。従業員にとって学びの深い研修となるよう、改善意識を持つことが重要です。
人材育成の計画
それでは、人材育成計画を立てるにはどのようなステップが必要なのでしょうか?
この章では、人材育成計画の立て方について紹介します。
目標設定
まずは、人材育成によって達成したい目標を設定しましょう。
目標を設定する際には、経営戦略の方向性や現場の課題・ニーズをもとに、どのような組織・人材を目指すべきかを考えます。なお、以下の点にも注意が必要です。
達成基準の設定:人材育成の効果を検証するためにも、目標を設定する際には達成基準を設定しましょう。
期限の設定:目標の難易度に応じて、現実的に目標達成ができる期限を設定しましょう。
対象者の分析
目標が設定できたら、次に研修を受講する対象者を設定します。
人材育成の対象を設定する際には、階層や職種など、さまざまな切り口があります。
たとえば「新入社員の定着率を高める」ことが目標であれば、日頃部下への指導や教育を行う全ての管理職を対象に研修を行います。加えて、新入社員にも、企業に愛着を持ってもらうための研修機会を設ける必要があるかもしれません。
達成したい目標に応じて、異なる研修対象者を設定しましょう。
育成方法を選定する
目標と対象者が決まったら、育成方法を選定しましょう。
育成方法を選定する際には、以下のステップで検討を行います。
目標達成に向けた教育内容の整理
体系的な知識やノウハウを伝授する必要があるのか、現場での実践的なスキルが求められているのかなど、教育すべき内容を整理します。
効果的な育成方法の選定
目標や対象者、教育内容に応じて、OJTやOff--JTなど、適切な育成方法を選定します。対象者の勤務地や勤務時間がバラバラである場合には、e-ラーニングを活用するのもおすすめです。
スケジュールの設定
これまでに決めた内容をもとに、スケジュールを立てましょう。
スケジュールを設定する際には、以下の点に注意が必要です。
基礎・発展・応用の流れを意識する
従業員が理解しやすいよう、基礎・発展・応用の流れを意識しましょう。
たとえば、基本的な営業のやり方を学んだうえで、お客様のタイプ別のコミュニケーション方法を理解し、細かいシチュエーション別のトークスキルを習得する、といった流れです。
対象者の参加しやすい日程を抑える
対象者の部門や部署によって、参加しやすいタイミングが異なる可能性があります。現場にヒアリングを行い、集まりやすい日程を抑えましょう。
評価・フィードバック
研修を行ったら、目標達成ができているかを確認するために、評価やフィードバックを収集するようにしましょう。
具体的には、以下の4段階で評価することが多くなっています。
研修満足度の確認:研修直後に対象者にアンケート調査などを行い、満足度を測る
学習到達度の確認:事後テストやスキルチェックなどによって、学習内容が定着しているかを測る
行動変容の確認:所属するチームの上司・先輩にヒアリングするなどして、学習によって対象者の行動に変化が生じているかを測る
業績変化の確認:ROE分析などを通して、人材育成が従業員やチームの業績にどのような変化をもたらしたかを測る
結果の分析や見直し
最後に、評価やフィードバックの結果を分析し、育成計画を見直しましょう。
分析結果を反映することで、より良い研修を提供することができます。
具体的な見直しの例としては、次年度に向けた研修プログラムの改善や、受講者へのアフターフォローなどがあります。
キャリアコンサルタントへ依頼もおすすめ
人材育成計画の策定にはさまざまなプロセスがあります。教育研修の経験が少ない担当者にとっては、不安も多いのではないでしょうか。
近年、キャリアコンサルタントに人材育成計画の策定支援を依頼している企業が増えています。キャリアコンサルタントを活用することで、育成目標の設定や対象者の分析、計画作成において、過去の支援実績に基づいた専門的な指導を受けることが可能です。
人材育成の成功事例
この章では、人材育成に成功している具体的な企業の事例を紹介します。
参照元:人材育成事例一覧(厚生労働省)
トッパン・フォームズ株式会社
トッパン・フォームズにおける特徴的な人材育成の取り組みの一つが、OJTトレーナー制度です。
トッパン・フォームズでは、新入社員に1年間OJTトレーナーがつきます。新人が身につけるべき能力リストを見ながら、自己評価とOJTトレーナーの評価をすり合わせることで、業務知識を効率的に伝承しています。
また、プライベートや相談やコミュニケーションの場としても活用することで、信頼関係の構築や愛社精神の醸成にも繋がっています。
株式会社山田製作所
株式会社山田製作所では、グローバル人材を早期育成するために「グローバル人材育成スクール」という取り組みを行っています。将来的にグローバル人材として活躍してほしいメンバーを選別し、年間を通して幅広い研修を受講させています。
具体的には、開発や製造、品質管理などの業務理解に加え、コスト・マネジメント管理などの経営的な視座を高める研修、異文化コミュニケーション研修や英会話研修などを受講します。
まとめ
人材育成は、企業の成長に欠かせない重要な取り組みです。適切な教育を通じて従業員のスキルや知識を高めることは、業務品質の向上やエンゲージメント向上、そして戦略目標の達成に繋がります。
一方で、人材育成を成功させるには、経営戦略や現場のニーズを踏まえた計画の策定と、継続的な見直しが必要です。
ぜひ本記事を参考に、自社に適した人材育成の方法を見つけ、企業と従業員が共に成長できる仕組みを整えましょう!