年収の壁への助成金とは【パート・アルバイト】壁の違い・働き控えの解決策を紹介
2024/07/26
「年収の壁」により働き控えが問題となっており、政府による助成金の支援対策が始動しています。開始される支援対策についてですが、実は23年10月からすでにスタートしているのを知っていますか?
この記事では、支援対策の注意点や申請プロセスなどを詳しく解説し、企業が参考にできる網羅性の高い内容にまとめています。
「年収の壁」とは
「年収の壁」とは、世帯主の扶養範囲内で働くパートタイムやアルバイトの方が一定の年収を超えると税金や社会保険料の負担が発生し、手取り金額が減少するボーダーラインの金額です。
例えば、妻が夫の扶養範囲内で働いている場合、年収が130万円を超えると社会保険料の支払い負担が増え、130万円未満で働いているよりも手取り収入が減少します。この年収の壁を意識して、働く時間の調整を行うアルバイト・パートの方は少なくありません。
年収の壁の違い・特徴
「年収の壁」の基準額について、妻が夫の扶養範囲内で働いている場合を想定して説明しましょう。
100万円の壁 住民税の壁
妻の年収が100万円を超えると、住民税の課税対象となります(自治体によって基準額が異なる場合があります)。
103万円の壁 所得税の壁
妻の年収が103万円を超えると、超えた分に対して所得税が課税されます。例えば、年収が104万円だと年間500円ほど手取り金額が減ります。
また、扶養から外れることになり配偶者控除の対象外になりますが、配偶者特別控除の対象となるため配偶者(夫)の控除額は同額のままです。
106万円の壁 社会保険の壁※条件を満たす企業のみ
妻の就労先と収入が1社で以下の条件を満たすと、年収換算で106万円超えになるため社会保険料の支払いが必要になります。
【妻の就労先の条件】
・勤務先の従業員が101人以上(※1)
・週の所定労働時間(※2)が20時間以上に
・月額賃金(※3)が8万円8000円以上
・勤務期間が2カ月を超える見込みがある
【ポイント】
※1 2024年10月以降は、勤務先の従業員が51人以上になり、対象者の範囲は広がる予定です。
※2 所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書で定められた時間のことです。
※3 賃金は、通勤手当や残業代を含みません。
130万円の壁 社会保険料の壁
妻の年収が130万円を超えると、妻は夫の扶養から外れ、社会保険料の負担が必要になります。こちらは1社ではなく合計年収で判断されます。
勤務先の社会保険の条件に該当しなければ国民健康保険や国民年金に加入します。130万円の壁には通勤手当や残業代も含まれるため、106万円の壁とは混同しないように注意が必要です。
150万円の壁 配偶者特別控除の壁
妻の年収が150万円以下なら配偶者特別控除が適用され、満額控除となります。しかし、年収が150万円を超えると、夫の配偶者特別控除額が減り始めます。
結果的に夫の所得税・住民税の負担が増えます。また夫の給与収入が1,095万円を超える場合も、配偶者控除・配偶者特別控除が減額あるいは全く受けられなくなるため注意しましょう。
201万円の壁
妻の年収が201万円を超えると、夫が配偶者特別控除を受けることができなくなります。
年収の壁の問題点
「年収の壁」は何が問題なのでしょうか。以下に年収の壁の問題点を2つご紹介します。
ライフスタイルの制約
年収の壁により、自分のキャリアアップを諦める女性がいます。
例えば、キャリアアップを望んでいても、年収の壁を意識して働く時間を制限することでキャリアを諦めるケースがあります。
これは女性の活躍を阻害し、企業にとっても多様な労働力の確保が難しくなる要因となります。またアルバイトやパートで働く方は学業や家事育児などと両立している場合が多いため、労働時間の増加がそれらの活動に支障がでないかという点についても考慮する必要があります。
働き控え
年収の壁を超えると税金や社会保険料の支払いが必要となり、手取り金額が減少します。
例えば、「106万円の壁」と「130万円の壁」は年収が106万円・130万円に達するまでは社会保険料(年金保険料、健康保険料)の支払いは不要でした。しかしその金額を超えたとたんに、年収に応じた社会保険料の支払い義務が発生し、結果的に手取り金額が一気に減ることで「働き損」になってしまうのです。
また夫の扶養から外れることによって、配偶者控除を使えなくなり世帯単位で手取りが下がることも考えられます。
このため、働けるけど年収の壁を超えないようにあえて働くことを控える「働き控え」が起きています。少子高齢化により労働者人口が減少している中、働き控えがさらに労働人口の減少を招く問題が指摘されているのです。
【106万円の壁対策】超えると手取りが減る?
106万円の壁は上記で説明したように、妻の就労先の企業が条件を満たす場合に妻の年収が106万円を超えると社会保険料の支払い負担が発生します。
この対策として事業主に向けて、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の制度が作られました。この制度により、年収106万円を超えて働いても労働者の手取りが減らない場合もあります。
以下に労働者・事業者がとるべき行動を詳しく説明しましょう。
労働者が取るべき行動
社会保険料の支払いが必要な労働者に対して収入増加の取り組み(例:手当てを支給する、労働時間を延長する)を行った事業者はキャリアアップ助成金を受け取れます。
つまり、キャリアアップ助成金は条件を満たした事業者に支給されるもので、労働者に支給されるものではありません。
勤めている企業(事業者)にこの制度を活用する意向があるのか、収入を増加する取り組みが実施可能かなどを確認してみましょう。
事業者が取るべき行動
事業者は、以下3点の中から個々の労働者の状況に応じて、収入増加の取り組みを行うことになります。
また、助成金を受け取るためには、キャリアアップ計画書を管轄労働局への提出が必要です。
・労働時間を延長した事業者に助成金を支給するのか(労働時間延長メニュー)
・手当の支給などで収入を増やす取り組みを行った事業者に助成金を支給するのか(手当等支給メニュー)
・労働時間延長メニューと手当等支給メニューの併用を行った事業者に助成金を支給するのか
【130万円の壁対策】超えると扶養から外れる?
130万円の壁を超えると一般的には扶養から外れることになりますが、以下のような事例の場合には扶養から外れません。
具体例
・扶養者:夫
・被扶養者:妻
・妻のパート先:スーパー
・事例:スーパーの繁忙期に残業した結果、妻の年収が130万円を超えた
労働者が取るべき行動
一時的に収入が130万円を超えたとしても、引き続き扶養に入り続けることが可能です。
今回の事例であれば、以下のような流れで行動すれば扶養に入り続けることができます。
・繁忙期の残業による一時的な収入増である旨を記載した書類を作成してもらう
・事業者に作成してもらった書類を夫が加入する健保組合等(社会保険の保険者)に提出する
事業者が取るべき行動
労働者(妻)から依頼があれば、一時的な収入増であることを証明する書類を発行しましょう。その場合、同じ人について一時的な収入増であることを証明できるのは連続2回(毎年1回被扶養者の収入確認がある場合には、約2年間)までが上限です。
年収の壁・支援強化パッケージとは
年収の壁により働き控えが発生していることの是正措置として、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」が始動しました。これは、労働者の手取り収入を減らさずに働ける環境を整えるための政策となっています。
「106万円の壁」への対応
年収が106万円を超えると、夫の勤める企業が条件を満たしていると社会保険料の支払いが必要になり手取り金額が減少します。
これを防ぐために、収入を増加させて手取り金額を減らさないような取り組みを実施した企業には、助成金を支給するというものです。
「130万円の壁」への対応
年収が130万円を超えると、すべての人が社会保険料の支払いが必要になります。しかし、パートやアルバイトで働く妻が労働時間を延長するなど一時的に収入が130万円を超えてしまったような場合に企業がそれを証明することで、夫の扶養にとどまれるようになりました。
ただし、「一時的に」130万円を超えてしまった場合が条件なので、基本給で130万円を超えてしまっている場合は対象外です。
配偶者手当への対応
企業が配偶者がいる従業員に支給する「配偶者手当」の支給条件について、年収制限の設定をなくす対応も必要です。なぜなら、配偶者手当が「働き控え」の要因の一つだからです。
年収の壁を超えて配偶者が働きたいと考えていても配偶者手当の支給条件に年収制限が設定されていることで、配偶者手当が支給されなくなり、世帯収入が下がります。そのため配偶者は働きたくても働くのを控える選択をとっている場合があるのです。
年収の壁・支援強化パッケージの注意点
年収の壁対策として、注意点が2点あります。
2025年末までの期限付きであること
年収の壁・支援強化パッケージは、2025年末までの暫定的な措置です。2026年以降の内容については、現時点では分かっていません。
この施策が継続されるのか、内容が変わって延長されるのか、現時点では未定です。支援強化パッケージが終了となる場合もあるため、今後の動向について注意が必要です。
企業主導で手続きが必要であること
年収の壁・支援強化パッケージの申請は企業が行うため、助成対象だったとしても企業が申請してくれなければ助成を受けることができません。
また助成金の受け取りタイミングや方法は事業者ごとに異なるため、企業側も申請プロセスを理解しておく必要があります。
年収の壁・支援強化パッケージの申請プロセス
給付金の申請に必要な書類は、「106万の壁」「130万の壁」とそれぞれ異なります。
申請に必要な書類
106万の壁対策
キャリアアップ助成金を受け取るためには、「キャリアアップ計画書」の提出が必要です。
収入増加の取り組み(例:手当てを支給する、労働時間を延長する)を開始する前にキャリアアップ計画書を管轄労働局に提出してください。
130万の壁対策
「一時的に収入が130万円を超えたことを証明する書類」の提出が必要です。フォーマットが準備されているため、記入後に提出してください。(※)
出典:被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書
申請手続きの流れ
106万の壁対策
1)対象となる労働者の要件によって、収入増加の取り組みが変わってきます。まず対象者の要件をチェックしましょう。
2)キャリアアップ計画書を作成します。
3)取り組みを開始するまでに管轄労働局に提出します。不備があると当日受理ができないため、時間には余裕をもって提出してください。
130万の壁対策
1)被扶養者から勤め先へ、「一時的な収入変更に係る事業主の証明」の発行を依頼します。
2)勤め先で上記の証明書を発行します。
3)被扶養者から被保険者の健保組合等(社会保険の保険者)へ提出します。
年収の壁を気にせず働くメリット
「106万円の壁」対策では、今までの手取り年収を減らさずに社会保険に加入することが可能です。
「130万円の壁」対策では、連続2回までですが、一時的な収入増が原因で年収が130万円の壁を超えてしまっても、引き続き扶養に留まり社会保険料の負担は発生しません。
しかし、年収の壁を超えると社会保険料の支払いが必要となりますが、加入によるメリットもあります。どのようなメリットがあるのか、以下で解説しましょう。
傷病手当金がもらえる
業務外の病気やけがで会社を休んだ場合に、通算1年6カ月にわたって給料の3分の2にあたる金額が支給されます。
将来の年金額が増える
厚生年金に加入すると、将来上乗せして年金を受け取ることができます。国民年金だけの場合の年金額よりも上乗せして年金を受け取ることができるメリットがあります。
障害厚生年金などを受け取れる
厚生年金に加入している人が亡くなったり、障害を負った場合、遺族厚生年金・障害厚生年金が支払われます。未加入よりも、手厚い保障が受けられます。
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まとめ
この記事では「年収の壁」について、説明しました。
年収の壁の対策を行った企業に対しては、給付金が支給される「支援強化パッケージ」は2025年末までの期限付きの制度です。「106万円の壁」「130万円の壁」により申請に必要な書類や申請手続きの流れは異なります。
たとえば、「106万円の壁」は対象者の要件によって収入増加の取り組みが異なり、取り組み開始前にキャリアアップ計画の作成と提出が必要なため、注意しましょう。
申請手続きなどで不明点があればサプナ社会保険労務士法人でも行っているので、ご連絡ください。