昇進と昇格の違いは?目的や実施時期、どう変わるのか、評価基準などをわかりやすく解説
2025/06/02
昇進・昇格は、企業が人材活用の一環として任意に運用している人事上の仕組みであり、人材成長や組織活性化を促す手段の一つです。いずれも、企業内の役職や地位が上がることを意味しますが、内容に違いがあります。
2023年、株式会社リクルートが実施した「企業の人材マネジメントに関する調査」によると、対象とした従業員30人以上の企業の人事担当者のうち約46%が「昇進・昇格」に関する制度変更や、従来のやり方を見直す必要性を感じていることが明らかになりました。
また同調査では「人材の評価」「賃金・報酬」「昇進・昇格」の3つの制度を全て見直している企業は、人材採用ができており、従業員エンゲージメントも高い傾向があることも分かっています。
この記事では、昇進と昇格の詳しい内容やそれぞれの違い、行う際に注意すべきポイント等について解説していきます。
「昇進」と「昇格」は何が違うの?
「昇進」と「昇格」は似ていますが、異なる意味を持つものです。では具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
以下に昇進・昇格の違いについて解説します。
意味の違い
昇進と昇格は、いずれも企業内での地位や役割の向上を指します。昇進は役職が上がること、昇格は社内の人事制度である「職能資格制度」における等級が上がることを意味する点が異なります。
「昇進」とは
昇進は、企業内に設けられた「課長」や「部長」といった役職が上がることを指します。多くの場合、昇進によりこれまでより責任の大きい仕事を担当したり、管理する部下の人数が増えるといったことが起こります。
「昇格」とは
昇格は、企業が業務に必要な能力を評価し、あらかじめ決めた給与テーブルによって給与を支給する「職能資格制度」の等級が上がることを意味します。等級や評価ランクなどの格付けが上がるとともに、給与や待遇が向上するケースが多いです。ただし、昇格と昇給が連動していない企業もあり、昇格しても給与が変わらない場合もあります。
目的の違い
昇進では対象者を上位職に任命し、より責任ある業務を任せ、チームや部署を管理・統括させます。これにより、適切な人材配置を実施し、組織力の強化や人材の流動性を維持することを目的としています。
一方、昇格では対象者の業績やスキル等を評価し、評価ランクや等級を上げ、評価に応じた報酬や待遇を与えます。これにより従業員のモチベーションアップにつなげます。
以上のことから、昇進は組織体制の強化、昇格は従業員の能力や成果を認めモチベーションの向上につなげるという異なる目的を持っていることが分かります。これらの制度は、企業の人材戦略や組織文化に応じて設計・運用されます。
昇進・昇格の事例を紹介
昇進のケース
これまで一般社員だった人が係長や課長といった役職付となるケース、すでに課長だった人が部長になる等、上位の役職に就くといった場合が昇進にあたります。肩書きが変化するため、社内外で分かりやすいキャリアアップとなります。
昇格のケース
等級1から等級2、ステージ1からステージ2等、企業内における職能資格制度により決められたグレードが上がる場合、昇格にあたります。昇格は社内制度であり、社外の人にはもちろん、社内においても公示がないケースが多く、本人以外には分かりにくいことが多いです。
昇進と昇格のタイミング
昇進と昇格のタイミングは各企業によって異なります。いずれも一般的には4月、10月等の年度や期の初め等に定期的に行われることが多いです。
昇進はさらに、新規事業の立ち上げや事業内容の変更により組織変更が必要となった場合や、役職者の退職や異動で役職に空席が出た場合、また候補となる従業員が目標達成や高い業績を上げた場合等に実施されます。
一方昇格は、役職ポストの状態に関わらず、勤続年数や人事評価の結果、資格やスキルの取得時等のタイミングで行われます。
昇進と昇格は同時に起きる?
昇進と昇格は同時に行われることもありますが、必ずしもセットで実施されるわけではありません。
特に昇進は、組織内の人材配置や役職ポストの状態が条件の一つとなるため、昇格と同じタイミングで起きないことも多いです。
同時に行われる場合
昇進と昇格が同時に行われるのは、企業内で以下の条件がすべて揃っている場合です。
・昇進・昇格の評価基準を満たしている
・昇進に必要な役職ポストに空きがある
・組織上、そのタイミングでの人材配置が適切と判断された
このように、制度上の条件と組織体制の状況が合致したとき、昇進・昇格が同時に実施されることになります。
どちらかだけの場合
昇進または昇格のどちらか一方だけが実施されるケースもあります。以下にその代表的なパターンを紹介します。
昇進のみ行われるケース:
組織変更や新しいポストの設置などにより、マネジメントポジションに就く人材が必要になった場合、昇格基準に完全には達していない人でも、役職者として任命されることがあります。
昇格のみ行われるケース:
業績やスキル面では昇格基準を満たしていても、役職ポストに空きがない、または組織体制上の理由で昇進が見送られることがあります。
このような場合、等級や給与は上がるものの、肩書きや職位には変化がありません。
昇進と昇格を行う際のポイント
昇進・昇格は従業員のモチベーションアップや組織力の強化につながる反面、不透明さや不公平感のあるプロセスでは、社員の不満や組織への信頼低下を招く要因となります。企業は公正で透明な基準とプロセスを設け、納得感のある運用を行うことが求められます。
以下に昇進と昇格で注意するポイントを解説します。
基準を明確に決めておく
昇進・昇格の条件は、あらかじめ具体的な成果指標や行動要件として定量・定性の両面から整理しておくことが大切です。
評価基準は文書化し、従業員に周知することで「何を満たせば昇進・昇格につながるのか」が明確になります。
特に多様な働き方が広がる中では、リモートワークなど非対面環境でも適用できる評価軸の整備も重要です。
公平公正で透明性のある評価を行う
評価は、定めた基準に基づいて複数の視点で行うことが原則です。
直属上司だけでなく、他部門や人事部による多面的なフィードバックを加えることで、主観やバイアスを最小限に抑えることができます。
特に管理職昇進においては「心理的安全性を確保できるか」など、単なる業績だけでなく、チームへの影響力も評価項目に含める企業が増えています。
該当者の適性やキャリア志向を考慮する
本人の適性や意向を無視した人事配置は、かえってパフォーマンス低下や離職リスクを招くことがあります。
定期的なキャリア面談などを通じて、昇進・昇格に対する本人の希望を確認し、将来的なキャリアプランと整合性を取ることが重要です。
また、現場のニーズと本人の強みを照らし合わせたマッチングが、昇進・昇格の成功率を高めます。
昇進を望まない社員への対策
近年では、昇進を辞退する社員が一定数存在します。
背景には、責任の増大や労働時間の延長に対する懸念、ワークライフバランスの重視、心理的負担、報酬とのバランス不満などが挙げられます。また、管理職としての将来像に魅力を感じられないという声もあります。
企業としては、こうした不安や誤解を解消するため、昇進のメリットや役割を丁寧に説明し、キャリア面談などで本人の意向や不安を把握する姿勢が求められます。
制度として「役職なしの専門職コース(エキスパート職)」など多様なキャリアパスを用意しておくことで、無理に昇進を押しつけず、社員のモチベーション維持にもつながります。
また、辞退された場合も本人を評価している姿勢を伝え、今後のキャリア形成にどう支援できるかを一緒に考えることが重要です。
【給与】昇進・昇格でどう変わる?
ここでは昇進・昇格により給与や手当にどのような影響があるかについて解説します。
給与や手当の変化について
一般的に昇進や昇格により給与は上がるケースが多いですが、仕組みや影響に違いがあります。
昇格では、あらかじめ定められた「等級ごとの給与テーブル」に基づき、等級の昇格に応じて基本給が引き上げられる仕組みが一般的です。
一方、昇進では役職に対して「役職手当」や「管理職手当」などが加算される形が多く、基本給の上昇を伴わないケースもあります。
職責や部下の有無に応じて、手当額が細かく設定されている企業もあります。
昇格しても給与が変わらない場合は?
昇格しても給与が変わらない場合には、以下の2つのケースが考えられます。
理由1.企業が昇格と昇給制度を分けている:
企業によっては、昇格と昇給を切り離して運用していることがあります。
この場合、等級は上がっても、次回の昇給査定タイミングまで給与が据え置かれることもあります。
理由2.給与改定時期が昇格時期と異なる:
昇格のタイミングと給与改定の時期が一致しない場合、昇給が数ヶ月遅れて反映されることもあります。
この場合、改定時に遡及して適用されることもありますが、制度や就業規則によって異なります。
【人事評価】昇進・昇格への基準や流れ
ここでは、昇進・昇格における評価基準や、企業で一般的に採用されているプロセスについて解説します。
評価制度の透明性と公平性を保つことが、社員の納得感と組織の信頼性向上につながります。
評価基準の内容
昇進・昇格の評価基準には共通点もありますが、目的の違いに応じて重視されるポイントが異なります。
昇進は「組織マネジメントへの適性」、昇格は「個人スキルや成果」が主軸になる傾向があるのです。
昇進の評価基準
昇進では、管理職としての資質やチーム運営能力など、組織貢献度を重視した項目が評価対象になります。
代表的な基準は以下のとおりです。
・部門内や企業全体における業績向上に貢献している
・リーダーシップとマネジメントスキルを備えている
・部下や後輩に指導する能力を持っている
・部門間の調整力やコミュニケーション能力がある
・上位役職に対する理解や業務遂行力がある
特に近年は、「心理的安全性を高められるか」といった職場環境づくりの視点も評価に加わるケースが増えています。
昇格の評価基準
昇格は主に本人の知識・スキル・業績など「職能面」を対象に評価されます。
以下のような要素が基準として設けられることが一般的です。
・一定の業績を上げている
・等級に必要とされる知識、スキルを備えている
・業務において高いモチベーションを持ち、積極性、協調性、責任感を持って取り組んでいる
・自己啓発や資格取得など、能力向上に前向きに取り組んでいる
・等級に応じた業務の幅や深さへの理解と対応力がある
また、「コンピテンシー評価(行動特性評価)」や「360度評価(多面評価)」を取り入れて多角的に判断する企業も増加傾向にあります。
評価の流れ
昇進・昇格を行う際のプロセスは、客観性と透明性を確保するため、一定の手順に基づいて進めることが重要です。
以下に一般的な流れを整理します。
1.候補者の選出
所定の評価基準に基づき、対象となる従業員を選出します。評価には直属上司だけでなく、複数の評価者が関わることが望ましいとされます。
2.試験の実施や評価会議による検討
試験(小論文・プレゼン・適性検査など)を実施する企業もあります。
また、人事部や経営層などによる評価会議で、候補者の適性・組織との整合性・他候補とのバランスを総合的に審議します。
3.昇進・昇格対象者の決定
評価結果をもとに、最終的な対象者を決定します。
ここでは「評価理由の説明責任」が求められる場面もあります。
4.対象者に通知
対象者に対して昇進・昇格を通知し、本人のキャリア希望や配属先の調整などを行います。
フィードバックを行い、本人の納得感を高める工夫も重要です。
5.社内公示
昇進については、社内イントラネットや会議体での公示が行われることが多いです。
昇格に関しては、社外には伝えず、社内でも本人のみに通知する場合もあります。
6.新しい役職、等級での業務を開始
通知後、正式な辞令発令とともに新たな役職・等級での業務がスタートします。
オンボーディング研修や管理職研修が併せて行われることもあります。
昇進と昇格に関するよくある質問
ここからは昇進と昇格に関するよくある質問とその解答を紹介します。
Q.昇進と昇格はどちらが上?
昇進と昇格は基準も内容も異なるため、どっちが上ということはありません。いずれも基準を満たし、社内での業績や能力、経験等が評価され実施されます。
Q.昇格しても給料が上がらないのはなぜ?
企業が昇格と昇給制度を分けている場合や、給与改定時期が昇格時期と異なるケースでは昇格しても給料がすぐには上がりません。
Q.昇進に年齢制限はある?
昇進において共通の年齢制限はありません。一方で、昇進において年齢制限を設けることは原則として法律で禁止されておらず、昇進の基準は企業ごとに設定できるため、年齢を考慮した要件を設けているケースも見られます。
Q.試験で決まる昇進・昇格とは?
昇進・昇格を誰が決めるというのではなく、基準に合致する対象者に共通試験を実施し決定する企業もあります。能力や性格を検査する適性試験や課題に対し自分の経験や知識をもとに回答させる小論文検査等を行い、決定します。
まとめ
昇進・昇格は企業に多方面の影響を与える重要な人事施策です。適切な昇進・昇格の実施は従業員のモチベーション向上に直結し、組織全体の活性化にもつながります。
新たな役職者の登用は、組織内に新しい視点やリーダーシップを生み、業務の推進力を向上させるでしょう。一方で昇進・昇格は組織運営上の責任とリスクも伴います。適切でない人材を昇進・昇格させた場合、部下の離職や職場の士気低下を招く可能性があります。
この記事を参考に、ぜひ効果的な昇進・昇格を実施し、企業の持続的な成長につなげましょう。
参考:株式会社リクルート.”企業の人材マネジメントに関する調査 2023”,
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